寒蘭は、暖かい黒潮の影響する、霧のまく清澄な空気の地方に自生するため、第一に寒さをきらい、直射日光にも全く弱い。そのため、自生の標準的条件としてあげられているものも、直射日光はほとんど当たらないが、南向きで日当たりがよく、木漏れ日がチラチラしているようなところ。加えて、比較的通風がよく、昼夜の温度差の少ない場所を好み、水はけのよい潅木疎林のゆるい斜面である。ただ、自生環境と全く同一条件にすることは難しいが、より近い条件にすることが、よい木、よい花にするための方法ということは言うまでもない。
下記に示す管理方法は、標準的なものであるため、地域、栽培方法等の差異には、留意してください。
・株が凍らないよう注意すると同時に、日中高温にならないようにしましょう。2〜10℃ くらいの温度を保てる場所がよいでしょう。 温室ガラス越しの光線は予想以上に強く、ちょっとの不注意で葉にこげあとを残すため、 あら目のスダレをかけるとよいでしょう。 屋外の株への冬囲いに、ビニールを使っているときは、昼間の温度が上がり過ぎるのを 防ぐため、日中は開け放しておき、夕方忘れずに閉じましょう。 ・灌水は、夕方以降に水やりをすると凍る可能性があるので、午前中から昼にかけて行い ましょう。 ・植替えは、よくないといわれているが、綿密に注意し、寒さを防いで行えば心配ないが、 植替えのショックで一時でも株が弱るので暖かく静養させることが必要です。 |
・3月の管理方法 |
・晴天の日は、日光浴をさせて新芽の発育を促しましょう。日光が強くなるので温室内の ガラスに近い鉢は、日焼けに注意しましょう。 冬囲いにビニールを使用している場合は、日中は開け放して温度の上がり過ぎを防ぎま しょう。 ・風を通すと、てき面に土が乾きますが、灌水は、「表土が乾いたら充分に」を忘れず、 暖かい水を午前中から昼にかけてたっぷり与えましょう。 ・施肥をはじめてもよい季節で、ハイポネックスなどの配合化学肥料は、標準の2〜3倍に 薄めて与えるとよいでしょう。 ・そろそろカイガラ虫も動き始めるので、その株には、殺虫剤を月2回ほど噴霧します。 |
・4月の管理方法 |
・成長期に入ります。桜(ソメイヨシノ)が咲いたら冬囲いを外しましょう。 温室は、終日開放して風を通し、陽光を十分にとりましょう。しかし、午後からの陽光は 強いためよしず等で日よけをしましょう。 ・生育期に入り、芽や根の成長とともに水もよく吸うようになります。温度、日当たり、 風通しの具合等により、乾き具合が違いますが、表土の乾きをみながら水やりのサイクル を決めておくとよいでしょう。特にこの時期は、根を伸ばし始める時なので、水やり サイクルをつくるのに適しています。水やりのサイクルをばらばらにせず(4日に1回、 2日に1回等)、同じサイクルで水やりをすることで、ランがそのサイクルに合わせた 根づくりをします。 水やりは、噴霧器などで濡らすのではなく、鉢の下から水がザ−っと出るくらいに たっぷり与えましょう。 ・成長が始まる時期です。新芽を太らせるために、チッ素、リン酸、カリを等分量程度 含む液体肥料を規定倍率の1.5〜2倍に薄めて月3〜5回、水やり代わりに施し ましょう。 ・植替えは、根が新しい土になじみやすい4月・5月が適しています。 植えつけて2年ほど栽培すると、土が悪くなり目詰まりして水はけが悪くなるなど、 うまく育たなくなります。2年に1回を目安に植替えましょう。ただし、生育のよくない 株は、昨年植替えていても鉢から抜いて、根の状態を調べ、傷んだ根は切って植替え ましょう。 植替え時には、新芽と新根を傷めないよう注意しましょう。 ・病害虫の発生に注意し、殺虫、殺菌剤を2週間に1回くらい散布しましょう。周囲が田畑 などで害虫が多い環境の場合は、散布回数を増やすなど、特に注意しましょう。 |
・5月の管理方法 |
・急に強くなる日差しで株を傷めないように、よしずなどで遮光し、長時間直射日光を 当てないようにしましょう、基本は、1日中木もれ日程度の光です。 ・4月に水やりのサイクルをつくっていれば、その間隔で水を与えましょう。水やりには、 鉢の中に新鮮な空気(酸素)を供給する役目もあるので、古い空気が押し出されるよう 鉢底から水が流れ出るまでたっぷり与えましょう。霧吹きなどで表面を湿らせるだけの 水やりは、根によい影響を与えません。 ・新芽を太らせるために、必ず施肥をしましょう。肥料を施さないと株に力がつかず、 花芽が少なくなったり、つかなくなったりします。チッ素、リン酸、カリを等分量程度 含む液体肥料を規定倍率の1.5〜2倍に薄めて月3〜5回、水やり代わりに施します。 ・植替えは、4月に引き続き適期です。 ・病害虫は、あまり神経質になる必要はないが、予防の意味で、殺虫、殺菌剤を2週間に 1回散布しましょう。 |
・6月の管理方法 |
・梅雨前の日差しはとても強く暑くなるため、遮光ネットやよしずなどで遮光をし、あまり 直射日光に当てないようにしましょう。遮光率の目安は80%です。これから9月までは、 直射日光は当てても朝9時までにしましょう。なお、風通しのよいところに置くことも 忘れずに。 ・梅雨に入ると、用土は乾きにくくなるが、湿っているからといって、水やりを怠っては いけません。この時期は成長が著しいので、4月に水やりサイクルをつくっていれば、 そのサイクルを変えないようにたっぷり与え、暑くなる日中に水を与えないようにしま しょう。 株元にたまった水が腐って、株を傷めることがあります。これから夏に向かい鉢内で水が 腐りやすくなり根が傷むので、くみ置きの水はやめて、必ず水道水(井戸水でもよい)を 使いましょう。 ・1番の成長期なので、主として液体肥料(チッ素、リン酸、カリを等分量程度含むもの) を規定倍率の1.5〜2倍に薄めて水やり代わりに施します。 ・害虫や病原菌が抵抗力をつけるのを防ぐため、殺虫・殺菌剤は、同じ種類のものを続けて 使うのではなく、2〜3種類を用意し、違うものを交互に使いましょう。 |
・7月の管理方法 |
・梅雨が明けて猛暑が始まると蒸れやすくなり、株元や置肥にカビが生えることがあるため 風通しに十分気をつけて管理しましょう。 ・6月に引き続き、朝9時以降の直射日光には当てないようにし、よしず、あるいは遮光 ネットを使いしっかり遮光をしましょう。よしずなら1枚、遮光ネットなら80%と50% のものを2枚に重ねるとよいでしょう。 ・水やりは、6月同様、4月に決めた水やりのサイクルがあれば、変える必要はなく、鉢底 からザーっと流れ出るくらいたっぷりと与えましょう。ただし、梅雨が明けて本格的な夏 に突入したら、水やりは早朝(午前5時~6時ごろ)か夜間(午後7時以降)に行い ましょう。日中に与えると、株元にたまった水がお湯になってしまい株を傷めます。 栽培に失敗する1番の原因は、この時期の蒸れです。 ・肥料は、規定倍率の1.5〜2倍に薄めた液体肥料を月に3~5回ほど、水やり代わりに 施します。基本的に肥料の種類はあまり気にする必要はありませんが、夏の暑い時期、 有機質肥料は鉢の中で腐って根を傷めることがあります。また、濃い肥料は根を傷める ことが多いので、規定の倍率よりも若干薄めて、回数を多く施すほうがよいでしょう。 ・病害虫の防除は、2〜3種類の殺虫・殺菌剤を用意して、交互に散布します。ただし、 気温の高い日は、薬によっては薬害が出るので、散布作業はしないでください。 ・花芽が出てくるのはだいたい8月以降ですが、ときには7月に出ることもあります。 しかし、早く出た花芽が、きれいな花を咲かせることはほとんどないので、この時期に 出てきた花芽は指でむしって取り除いてもかまいません。 |
・8月の管理方法 |
・6、7月に引き続き、朝9時以降の直射日光には当てないようにし、よしず、あるいは 遮光ネットを使いしっかり遮光をしましょう。よしずなら1枚、遮光ネットなら80% と50%のものを2枚に重ねるとよいでしょう。照度を測るルクス計を持っていれば、 日中6000ルクスを目安にしてください。 ・水やりも6、7月同様、鉢底からザーっと流れ出るくらいたっぷりと与えましょう。 ただし、水やりは早朝(午前5時~6時ごろ)か夜間(午後7時以降)に行いましょう。 日中に与えると、株元にたまった水がお湯になってしまい株を傷めます。 ・肥料は、規定倍率の1.5〜2倍に薄めた液体科学肥料を月に3~5回ほど、水やり代わり に施します。この時期に有機質肥料を施すと、鉢の中で腐って根を傷めることがあります 初心者の方やどうしても風通しのよい場所を確保できないような場合は、真夏は化学肥料 だけにしたほうが安全でしょう。また、活力剤や成長ホルモン剤などは、瀕死の状態の株 やバックバルブを用いて苗づくりを行う時に使用するものなので、健全な株には使用 しないでください。健全な株に使用すると、たしかにその年は芽がたくさん出たりします が、極端に葉焼けしやすくなったり、新芽一つ一つが大きく育たず、結局、花が咲かない 株になってしまいます。こうなると、元の状態に戻るには最低3年は掛かるので、水と 肥料以外は使用しないようにしましょう。 ・病害虫の防除は、2〜3種類の殺虫・殺菌剤を用意して、交互に散布します。ただし、 気温の高い日は、薬によっては薬害が出るので、散布作業はしないでください。 ・暑いからといって、冷房の入っている部屋に入れたりしないようにしましょう。 ・帰省などで数日間留守にするような時には、出掛ける直前にたっぷり水やりをし、必ず 風通しのよい、日陰に置きましょう。そうすれば、1週間くらいなら問題ありません。 中には、水の入ったトレーなどに鉢を入れておく人がいるようですが、根が傷みますので 絶対にしないでください。 |
・9月の管理方法 |
・上旬は、まだ残暑が厳しいので、前月に引き続き、株が傷まないように風通しの良いとこ ろで管理しましょう。遮光も中旬までは8月と同じで、よしず1枚か80%と50%の遮光 ネットを二重にかけるなどして、強い日差しを避けてください。 ・水やりのサイクルは、4月から11月までは同じですので、これまでと同じ間隔で与えて ください。ただし、残暑が続いているうちは、日中には与えないよう気をつけましょう。 下旬になり、秋の気配が感じられるようになったら、水やりの時間にこだわる必要はなく なるので、日中に与えてもかまいません。 ・新芽の成長は、上に伸びるだけではなく、秋には株元(バルブ)が太ってきます。この時期 に肥料が不足すると、太らせることができず、来年の新芽、花の大きさにかかわりますの でしっかり施しましょう。液体肥料を規定倍率の1.5〜2倍に薄めたものを水やり代わり に月に3~5回ほど施します。 ・寒蘭は、比較的害虫の被害を受けにくい植物ですが、時々は予防を兼ねて2週間に1回、 殺虫・殺菌剤を散布した方がよいでしょう。 ・春に植替えができなかった株は、9月下旬から10月にかけて済ませましょう。 植替え方法は、春の場合と同じですが、残暑が続いているうちは、植替えをしてはいけま せん。また、11月に入ってからでは遅すぎますので、気候・時期を考慮して行ってくだ さい。 |
・10月の管理方法 |
・日差しが弱まるので、春と同じ環境下にします。風通しのよいところで、午後の直射日光 は特に避けましょう。午前中も、あまり強い直射日光は避けたほうがよく、よしずか 80%の遮光ネットを1枚通した程度の光がよいでしょう。 ・春から秋までは、水やりのサイクルは同じです。春に決めた日数間隔で行いましょう。 与える時は、鉢底からザーっと流れ出るくらいたっぷりと与えましょう。 残暑の季節も過ぎているので、水やりの時間帯を気にする必要はありません。 ・バルブを充実させるためには、肥料は欠かせません。肥料不足は花の大きさ、来春の新芽 の大きさにも影響するので、この時期の施肥はしっかり行いましょう。 液体肥料を規定倍率の1.5〜2倍程度に薄めたものを水やり代わりに月に3~5回ほど 施します。チッ素、リン酸、カリを等分量程度含むものを選びましょう。 ・予防のために、2週間に1回、殺虫・殺菌剤を散布した方がよいでしょう。寒蘭は、 比較的害虫の被害を受けにくい植物ですが、置場の周囲に虫が多い環境の場合は、注意が 必要です。また、寒蘭の花にアブラムシがつくことがあるので、気をつけましょう。 |
・11月の管理方法 |
・朝9時頃までは、直射日光に充ててもかまいませんが、午後は、直射日光を避け、半日陰 に置きましょう。暗い日陰にずっと置いてあると、葉の緑色が濃くなり、細くて背丈ばか りが高い、葉が徒長した株になってしまいます。逆に、葉の緑色が標準の株より薄くなっ ている場合は、日差しが強いということなので、目安にしてください。 ・春から秋までは、水やりのサイクルは同じです。春に決めた日数間隔で行いましょう。 ・花を咲かせたあとは、力を回復させるために、必ず肥料を施しましょう。液体肥料を規定 倍率の1.5〜2倍程度に薄めたものを月に3~5回ほど施します。日中の気温が10℃を 下回るようになると、株はほとんど成長しなくなりますので、このときが施肥をやめる タイミングです。 ・予防のために、殺虫・殺菌剤を散布しましょう。鉢にアリが多く見られるときは、アブラ ムシ、カイガラムシが発生している可能性があるので、注意が必要です。カイガラムシ は、葉の裏などにもついているので注意し、見つけしだい指で取りましょう。 ・花が咲いて、1週間ほど楽しんだら根元付近で切ってあげましょう。最後まで切らずに 楽しんでもよいのですが、長くつけておくと、それだけ株の力を消耗してしまいます。 切り取った花茎は、一輪挿しなどに水を入れて、切り花として楽しむのもよいでしょう。 |
・12月の管理方法 |
・1日の最高気温が10℃より低くなったら、株は成長をほぼ止めて休眠期に入りますので、 直射日光の当たらない日陰に移しましょう。また、夜間の気温が0℃を切るようになった ら室内に取り込むなどして、株を凍らせないようにしましょう。室内に入れるときは、 暖房の効いた部屋には絶対置かないようにしてください。また、出窓なども、ガラス越し の日光が強く当たり、高温になるので避けましょう。 ・12月から3月にかけては休眠期ですから、4月から11月に行っていた自分の水やりサイク ルに1〜2日足した間隔で与えましょう。また、夕方以降に水を与えると、鉢内で凍る 可能性があるため、水やりは午前中から昼にかけて行うようにしましょう。 ・最高気温が10℃を下回るようになれば、肥料を施す必要はありません。肥料をやり続け ると、かえって根が悪くなる原因となります。 ・冬になると、害虫の被害はほとんどなくなります。 |
T.軟腐病 ハカマに異常がないのに、新葉の元から茶色になって腐敗枯死する。俗に言うスッポ抜け。 (対策) 高温時に発生するので新芽の中に水が溜まらないようにする。 |
U.炭素病 新芽が短いうちに成長が止まり、黒点を生じて枯れる。(新芽の成長期) 葉の中央に褐色の点ができ、広がったり渦巻状で褐色になる。 (対策) ダイセン、マンネブダイセンを定期的に散布する。 |
V.葉枯病 葉先が急に褐色になって枯れたり、葉の元やハカマが変色する。 根に障害があると出やすい病気である。 (対策) ダイセン、マンネブダイセンを定期的に散布する。 |
W.モザイク病 葉の一部がかすり状に葉緑素が抜け、黄色の斑ができたりする。 (対策) 薬剤防除は困難である。病株は、隔離し、水伝染を防ぐ。 |
X.カイガラムシ 葉に白い粉のような虫(雄)、茶褐色の虫(雌)がつき、寄生部は黄斑状となる。バルブの 皮下にも寄生がみられる。 (対策) 通風を良くし、湿度の調節を図る。 スミチオン等を散布する。 |